ジャズ⑧
朝、ニューオリンズに発つ前にもう一箇所、
「サン・スタジオ」だった。
ここからもうあのエルビスだ。
受付で「ジャンルは?」と聞かれて「なんでも」、「似てる歌手は?」と聞かれて「他の誰とも似ていない」って答えたっていう、
エルビスは、
もうここからだった・・・。
ニューオリンズにナビをセットするとき「 Tennessee」の文字が目に入った。
メンフィスはテネシーだ、
ルート55に入るともうテネシーはおわりか、
そうはいかない。
ナッシュビルにセットし直して、深く「テネシー」に入っていくことにした。
ずっと昔、
ジャズじゃなくて、
ニューオリンズでもなかった。
エルビスじゃなくて、
メンフィスでもなかった。
昔はずっと「テネシー」だった。
””
I was dancing with my daring to the Tennessee Waltz
When an old friend I happen to see
I introduced her to my loved one
And while they were dancing
My friend stole my sweetheat from me
I remember the night and the Tennessee Waltz
Now I know just how much I have lost
Yes, I lost my little daring the night they were playing
The beautiful Tennessee Waltz
""
パティ・ページの哀しげに絡みつく歌声は、あの遠く遥かな「テネシー」へ誘ってくれた。
聳えたつ山々の稜線に夕日が沈んでいく、
小高い丘のふもとの小さな村に夕暮れが迫る、
丘の中腹の古びた集会所に一人、二人と、
それぞれおしゃれを凝らして集まってくる、
収穫したぶどうを醸したワインが振舞われる、
荒く手作りされたヴァイオリンが奏でられる、
男たちが遠慮がちに壁の花を誘いでていく、
陽焼けかワインか、きらきら赤く輝く頬と頬がかすかに触れ合う。
あのときから「テネシー」は遠く遥かな「ふるさと」となった。
ルート40に入る少し手前の道路脇に「POOL」の看板だった。
「ビリヤード」はアメリカでは「プール」だ、
ひさしぶりだ、
突いてみるか。
階段を上がると台が8つほどで、客は奥の窓際右隅にひと組だった。
窓際左隅の自販機でコーラを取り出して長椅子でゴクッとやった。
右隅の台で男と女二人ずつキューを握ってナインボールをやっていた。
男も女もグズグズのパンツ、シャツにタトゥー、ビーズやらだらけだ。
もう一人、 女が台に背を向けて窓の景色をみていた。
まるで化粧っけなし
ジーンズはストレート
洗いざらした白のワイシャツ
いまここにそのまんま生きてる。
女が自販機のほうにきた、
ー You bet me?
女はちょっと頬を膨らませて小さく中指を立てた。
知ってる英語では「bet」が気に入っていた、
「trust」は嘘っぽいから「bet」がいい、
ただ使い方は適当、
「ちょっとどう?」って言ったつもりだった、
「bed」って聞こえたかな、
まあどっちにしても中指だから、
階段を降りて車に乗り込んだ、
さてルート40とサイドミラーを確認すると中指の女が近ずいてきた。
助手席に座った女は、
まるで化粧っけなし
ジーンズはストレート
洗いざらした白のワイシャツ
いまここにそのまんま生きてる。
だから何も言わずに何も聞かないままスタートした。
すぐ近くにあったモーテルにチェックインした。
椅子に座って少し見合ったあと、
立ち上がって
””
I was dancing with my daring
to the Tennessee Waltz
・・・
””
なんて誘ってみた。
女はふっと遠くに眼をやったあとゆっくりと立ち上がって身を寄せてきた。
抱き寄せてステップをはじめるとそれなりにあわせてくれた。
化粧っけのない艶やかな頬とうなじから「テネシー」の懐かしい香りが漂った。
女は手で身体を押し離すとそのままワイシャツを脱いだ、
たっぷりとした乳房があらわれた、
ジーンズ、パンティを下ろして、また身を寄せてきた。
そのままベッドに向かってこっちも全部脱ぎ捨てた。
いまここにそのまんま生きてる。
いまここにそのまんま生きてるあの懐かしい「テネシー」に深く入っていった。