ジャズ⑤

 

 

 

このごろは酔いがまわるとストンと寝落ちする。

いい気分で飲み始めるとなお早い。

 

 

さきほどから、いい気分で飲み始めている、

それにもうベッドに潜り込んでいる、

 

なのに、きょうはなかなかそういかない。

 

 

 

また、さっきのアレか。

 

 

「半音はずし」は  ”Flung  out  of  space”   ってことで、とりあえず気持ちよく落ち着いた。

 

 

でも ”「半音はずし」にトントンでオーケーでしょ” ってやつが残ってた。

 

こいつは、やっぱり、わかるようでわからない。

 

 

ひょっとしてこれも ”Flung  out  of  space”  か?

ぽんと空から放り投げられた謎かけ、ってやつか?

 

 

 

いや、もうヘタに考えるのはやめにしている、

考えるなんてことはムダだ、

考えるといずれドツボにはまる、

もう、しこたま考えてしこたまバカをみた。

 

 

だからジャズをはじめたんだ、

だからジャズを生業にしているんだ。

 

 

 

考えるんじゃなくて、ただ感じればいい、

これまでそうしてきた、

ものごとは、ただただ感じればいい、感じとればいい。

 

 

 

あの「半音はずし」は、 ”Flung  out  of  space” だ、って感じられたんだ。

 

”「半音はずし」にトントンでオーケーでしょ”ってやつも、そのはずだ、

そのままを、ただすなおに感じてみればいい。

 

 そう思って、じっと眼をつぶった、

 

 

考えない、

心の動きを鎮めて、

ただ感じるんだ ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

夜がすっかり更けて布団にすっぽりと潜り込む、

耳元にはちゃんと小さなラジオを引き寄せている、

 

聴こえてきた、

はるか遠いところから、

 

ゆったり、のんびりしたハーモニカが、

調子ずらしのおどけたリズムで、

こっちに呼びかけるように、

 

追って、

 

  "  Love Love me do

   You know  I love you

    ・・・

なんて、呆気も素っ気もない詞で、

ゆったり、のんびりした、調子ずらしのおどけたリズムに乗せて、

こっちに歌い掛けてくるように、

 

 

 

聴こえてきたのは、気分だった。

それは、こっちとおなじ気分だった。

 

感じていたのは、気分だった。

それは、こっちとおなじ気分だった。

 

 

あとで知った。

 遠くリヴァプールの「Cavern」でやってたあの4人だった。

 

 

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あの4人のあのときの気分だった。 

 

その気分に、こっちのおなじ気分がトントンと応えてジンジンと響いた、

 

って、たしかにあのとき感じた。

 

 

 

ものごとは感じればいい、

感じれば、伝わる。

感じれば、気分も伝わる。

気分が伝われば、つながる。

 

そう、それでオーケーだ。

 

 

 

おう、ちゃんとハマった。

 

 

”「半音はずし」にトントンでオーケーでしょ”

 

こいつにちゃんとハマった ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

ってところで、ふいと目が覚めた。

 

こうなると夜はけっこう長い。