「契機」

”” 人間は必然の〈契機〉があれば意志とかかわりなく千人、百人を殺すほどのことがありうるし、 〈契機〉がなければ、たとえ意志しても一人だに殺すことはできない。そういう存在だと云っているのだ。それならば親鸞のいう〈契機〉(「業縁」)とは、どんな…

ジャズ⑩

・・・ ・・・ ・・・ あの日はたしか、「はじめての宇宙中継」とかって聞いてて、朝からもう、そわそわワクワクだった。 ザーザー、ザラザラの残念なテレビだったけど、あの遠いアメリカ、そのアメリカのたったいまの様子が生で見られる、って、それはそれ…

「戦争」

”” 戦争が原則として違法化されている今日、戦争に関する国際法(戦時国際法)においては、従事する国家の政府は、一定の権利義務が定められている。具体的には 敵戦力の破壊および殺害 中立国の船舶に対しての国防上の要請から、もしくは戦時禁制品の取り締…

ジャズ⑨

女は壁側に向って微かな寝息をたてていた。 寝入るとき胸もとまで引っ張り上げたシーツは太ももあたりにしどけなくまとわっていた。 ぱっさりとした栗色の髪が耳たぶから頬へ頬から口元へ流れ落ちている。 やわらかなうぶ毛がうなじから肩へ肩から腰へ豊かに…

「科学」

”” ヘーゲルが、エンチクロぺディーの第三版の終わりで、理念の各形態がある場合には全推論の両項にもなりまた他の場合にはその中間にもならねばならないことを証明したことによって永久に終わりを告げたのではあるが。つまり、このことを理解すれば、どこか…

ジャズ⑧

朝、ニューオリンズに発つ前にもう一箇所、 「サン・スタジオ」だった。 ここからもうあのエルビスだ。 受付で「ジャンルは?」と聞かれて「なんでも」、「似てる歌手は?」と聞かれて「他の誰とも似ていない」って答えたっていう、 エルビスは、 もうここか…

「喜劇」

“ “ 「ヘーゲルはどこかで、すべての偉大な世界史的な事実と世界史的人物はいわば二度現れる、と述べている。彼はこう付け加えるのを忘れた。一度目は偉大な悲劇として、二度目はみじめな笑劇として、と。 ・・・ 人間は自分自身の歴史を創るが、しかし、自…

ジャズ⑦

ようやくそれらしい街並みが見えはじめた、 ー ああ、あれだ、 メンフィスだ、 空は全面ブルーに晴れ渡っている、 ー ってところまできて、なんとも疲れた。 狭っ苦しい空の上で14時間以上、レンタカーでもう6時間ほどだ、 まあ、しょうがない。 そうなる…

「自然」

”” 真淵の「国意考」のなかで、もっとも鮮やかにこれをしめすのは太宰春台が『弁道書』で古代日本では「親子兄弟叔姪」が夫婦になって禽獣の行いを平気でやるような態たらくだったが、中華から聖人の道が入ってきてはじめて倫理が確立されたとかいたのに反論…

ジャズ⑥

それは機上で決めた。 もう、7、8時間は飛んでいた。 アメリカの南部へ行くんだからってこじつけで飲みはじめたバーボンのせいか、C・Aから「Chicken or Fish ?」って訊かれるだけでうろたえるほどのダメ英語で先行き不安なせいか、まあ機内の気圧のせいも…

「曾皙」

”” 儒と呼ばれる聖人の道は、「天下ヲ治メ民ヲ安ンズルノ道」であって、「私カニ自ラ楽シムニ有ル」所以のものではない。 ・・・ 孔子は、道を行うのに失敗した人である。 晩年、その不可なるを知り、六経を修めて、これを後世に伝えんとした人である。 ・・…

ジャズ⑤

このごろは酔いがまわるとストンと寝落ちする。 いい気分で飲み始めるとなお早い。 さきほどから、いい気分で飲み始めている、 それにもうベッドに潜り込んでいる、 なのに、きょうはなかなかそういかない。 また、さっきのアレか。 「半音はずし」は ”Flung…

「相対」

先の大戦が終わって70年あまり、近代は、「共同幻想」の「相対」とその「限界」を悟りつつあり、なおの焦慮を強めている。 人は、それぞれ自己の個人幻想を紡ぎ出す。 近代の個人幻想は、その人のさまざまな感覚と感情を幾重にも織り成した生地から産み出…

ジャズ④

さっきから気になっていた。 チック・コリアの「スペイン」をやりはじめてインプロに入ったときあたりから、ときおり、トン、トン、と小さな音が聞こえてきて、気になっていた。 「スペイン」を弾き終わったところで、まばらな拍手に応えるふうにしてそれと…

「永遠」

”” また見つかった、 何が、永遠が、 海と溶け合う太陽が。 独り居の夜も 燃える日も 心に掛けぬお前の祈念を、 永遠の俺の心よ、かたく守れ。 人間どもの同意から 月並みな世の楽しみから お前は、そんなら手を切って、 飛んで行くんだ・・・。 ・・・もと…

ジャズ③

さきほど仕事を決めに出かけたとき、アタリは付けておいた。 途中、あ、ココだな、って風情の路地があるのを見逃してなかった。 それにしてもいったい、知らない街を歩き始めるとあの「遠くへいきたい」が聞こえてくるのは、どういうことか。 どうして知らな…

ジャズ②

ホテルでは、部屋に帰ると、着ていたものを一気に脱ぎ捨て、バルブ全開のシャワーをしたたかに浴びて、缶ビールをプシュ、ごくん、プアー、ってコースを鉄板のルーティンとしている。 この極めつけのコースは、缶ビールがキンキンに冷えてるとサイコー、とな…

ジャズ

裏口のアルミドアのノブがすんなりと回ったためしがなかった。 これもだ。 もういちど手指に力をこめて回すとギッと呻いて開いた。 ーなにか用か ーピアノだ、聞いてなかったか ーああ、お前か、あっちだ 外はまだ昼下がりというのに、指差された奥の部屋は…

「ディオニュソス」

”” 「ディオニュソスはアジアから来た。この狂乱と淫蕩と生肉啖らいと殺人をもたらす宗教は、正に「魂」の必須な問題としてアジアから来たのである。理性の澄明をゆるさず、人間も神々も堅固な美しい形態の裡にとどまることをゆるさないこの狂熱が、あれほど…

「文化」

”” 「文化は、ものとしての帰結を持つにしても、その生きた態様においては、ものではなく、又、発現以前の無形の国民精神でもなく、一つの形(フォルム)であり、国民精神が透かし見られる一種透明な結晶体であり、いかに混濁した形を取ろうとも、それがすで…

「受容」

" 人類の共同性がある段階で<母系>制の社会をへたことは、たくさんの古代史の学者にほぼはっきりと認められている。そしてあるばあいこの<母系>制は、たんに<家族>の体系だけでなく<母権>制として共同社会的に存在したことも疑いないとされる。” ” …

「祖国」

”” This land is your land, This land is my land, From California to the New York Island, From the redwood forest, To the Gulf stream waters, This land was made for you and me. ・・・ As I was walkin’I saw a sign thereAnd that sign said no …

「道義」

”” 私は本来国体論には正当も異端もなく、国体思想そのものの裡にたえず変革を誘発する契機があって、むしろ国体思想イコール変革の思想だという考え方をするのである。それによって平田流神学から神風連を経て二・二六にいたる精神史的潮流が把握されるので…

「モノリス」

”” 「『魁種族』が地球に放り込んだ『モノリス』に触発された『ヒトザル』は道具を創って獣を倒して喰らい武器を創って反目するヒトザルを殺戮し、その歓喜のあまり放り上げた骨が最新衛星に一変する」 「月に移住した人類はクレーターで『モノリス』を発掘…

「堕落」

”” 人間は堕落する。義士も聖女も堕落する。それを防ぐことはできないし、防ぐことによって人を救うことはできない。人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない。 戦争に負けたから堕ちるのではないのだ。人間だから堕ちるの…

「草の葉」

” 申し分なく産みつけられ、一人の完全な母によって育て上げられ、生まれ故郷の魚の形をしたパウマノクを出発して、多くの国々を遍歴したあと――人の往来はげしい舗装道路を愛するものとして、わたしの都市であるマナハッタのなか、さてはまた南部地方の無樹…

「二重橋」

” 久しぶりに 手を引いて 親子で歩ける うれしさに 小さい頃が 浮かんできますよ おっ母さん ここが ここが二重橋 記念の写真を撮りましょうね やさしかった兄さんが 田舎の話を聞きたいと 桜の下で さぞかし待つだろ おっ母さん あれが あれが九段坂 逢った…

「The October」

「野球の好きな少年」は生地キューバの岸辺から母親を乗せた小さなボートを漕ぎ出した。 彼は横波を受けたボートから落ちた母親の身体を抱え揚げしながらようようにしてアメリカはフロリダの地に着岸した。 その地で彼はぐんぐん大きくなった。 彼はやがてメ…

「生前退位」

「主観と客観との間には一種の十全な関係が生ずるとか、客観とは内からみれば主観であるにちがいない何ものかであるとかということは、思うに、かつてはもてはやされた時代もあったが、一つのお人好しの捏造である。」 「 現象に立ちどまって『あるのはただ…

「執行」

「アイヒマンは、一貫してユダヤ人殺害への関与を否定、ユダヤ人の絶滅に『協力し幇助したこと』だけだと主張、あくまで合法な命令に従っただけだと主張した」 「ユダヤ人の絶滅について、ユダヤ人自身から、単なる従順以上のもの、協力を得ていたのも事実で…